――まずは、大会開催の経緯を聞かせてください。

長谷部開催地となった北渋(初台・本町・笹塚地区)については、もともと「ここをもっと盛り上げていきたい」という思いがありました。縁がないとあまり訪れないエリアかもしれませんが、じつは渋谷の生活の息吹を感じられる、とてもよい街なんです。そこを活性化するためのアイディアを区民から募ると、水道道路でのイベントや駅伝といった提案がちょこちょこ出てきて。区議会でもそうした声が上がりはじめ、正式にイベント企画に取りかかったのが3年ほど前でした。
渋谷区は基本構想のなかで「思わず身体を動かしたくなる街へ」という一節を掲げています。でも運動できる場所は限られているし、いきなり大きなグラウンドやプールをつくるのも難しい。そこで、渋谷区自体を“15平方キロメートルの運動場”と見立てて、政策を検討していくことにしたんです。いまある公共空間を有効活用する工夫は、都市のスポーツ振興において不可欠だとも感じています。そのなかで浮かび上がったのが、道路を使ったマイルレース。コロナ禍で一度断念したりもしつつ、ようやく今年開催に至りました。

――なぜ「マイルレース」の案を採用したのでしょうか。
長谷部一般にはあまりなじみがないレースですが、1.6㎞ってじつはとてもほどよい距離なんですよね。誰でも気軽にチャレンジしやすいし、実際に老若男女を問わず、応募をいただいています。
久保田それから、参加するトップランナーがものすごくダイナミックな走りをしてくれるので、見ているだけでも楽しいんです。1.6㎞だからこそ、マラソンなどとはまったく違うスピード感が味わえると思います。
そもそもワンマイルレースというのは、外国ではとてもポピュラーな競技。ニューヨークやロンドンなど、大きなマラソン大会が開催される都市にはワンマイルレースもかならずあります。なのに、東京マラソンがある日本には、これまでワンマイルレースがなかった。今回はじめて国内で大々的にそのレースがつくられ、協力させていただけることを非常にうれしく思っています。
矢部最近では代々木公園にもワンマイルのマーキングが施される(ニューバランスが2022年4-5月に行ったYoyogi Park FKTにて実施)など、タイムを測りながら走っている方も見かけるようになりました。ワンマイルの面白さや楽しみ方が、少しずつ浸透してきているように思います。1.6kmは陸上だと中距離に分類されますが、それでもかなりの速度が要求されるし、持久力も必要だし……アスリートの競技としては、意外としんどいものなんですよね。とはいってもやはり距離が短いので、普段走っていない人でも完走できて楽しめるのではないでしょうか。


――今回のレースでは、田中希実選手が一般ランナーと走るスペシャルイベントも開催されますね。
久保田彼女は中距離でどんどん記録を更新しているうえ、短距離や長距離にも果敢に挑戦しているワールドクラスのランナーです。9月に行われたニューヨークのマイルレース「5th Avenue Mile」でも、女性の部で5位の成績を残しています。そういった彼女の走りをみなさんに体感してもらうことは、将来の陸上界や地域に対して大きなギフトになるはず。ぜひ、これからも飛躍していく彼女の走りを、みなさんの目にも焼き付けてほしいです。
矢部田中希実さんと一緒に走りたい方はたくさんいるでしょうから……しっかり広報を行い多くのランナーに知っていただけるよう試行錯誤しています。どちらにしても住宅地を走るロードレースですから、気さくに応援の声をかけたりして、楽しんでいただけたら。

――今回のような大会は、ランニングや地域の可能性をどう広げていくと思いますか?
長谷部健康な身体づくりのためにも、ちょっとした運動を楽しむきっかけになればと思っています。データによると、とくに女性は中学生になったあたりから急速にスポーツ離れが進むんです。学校教育ではコンペティションとしての競技はたくさんあっても、生活の一部としてスポーツを楽しむスタイルは提案しきれていませんでした。だからこそそういう部分を、専門家たちの力も借りながら、自治体が補完していけたらと考えています。効果的なスポーツ振興を進めるには、行政だけでなく、そのスポーツをよく知る方々とともに取り組むことが大切ですから。
久保田いまおっしゃったことに賛同です。これから各地でたくさんのワンマイルレースが生まれるかもしれませんが、国内オリジナルはここ、北渋から。「やっぱり北渋のレースだね」「あそこから始まったんだよ」などと言われるようないいレースになるように、我々も力を尽くしていきたいですね。
長谷部渋谷区には表参道ウィメンズランもあり、公道を使ったレースを増やすのは物理的に難しいので……まずはこの「北渋マイル」をしっかりと定着させていきたい。季節の風物詩になるくらい存在感を高めて、明るい街づくりにつなげていければと思います。
